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【2026年対応版】賃貸仲介会社の法的責任・クレーム対応ガイド|重説・広告表示・審査・カスハラの実務ポイント

2025/11/14

監修:RESUS社会保険労務士事務所(社会保険労務士 山田雅人)

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はじめに|2026年は「クレーム対応の透明性」が求められる年

2026年は、働き方関連法の改正に伴い、賃貸仲介会社でも深夜対応の抑制・記録義務・対応体制の明確化が求められる場面が増えると想定されます。

賃貸仲介会社が抱える法的リスクは、次のような構造があります。

➡ 入居希望者からのクレーム
➡ オーナーからの要求・干渉
➡ 管理会社と仲介会社の役割のズレ
➡ 情報更新遅れによる「誤表示トラブル」
➡ SNS/LINEなど新しい問い合わせチャネルの増加
➡ 過度なクレーム・カスハラの長時間化

賃貸仲介会社は「当事者ではない立場」であるにも関わらず、板挟みになりやすく、責任範囲が誤解されやすいのが最大の特徴です。本ガイドでは、不動産会社が押さえるべき法務・労務・安全配慮・クレーム対応のポイントを、2026年の法改正に向けた観点から整理します。

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1. 賃貸仲介会社の法的責任の基本

■ 宅建業法に基づく「説明義務(重要事項説明)」

仲介会社には、宅建業法に基づき、契約前に重要事項説明を行う義務があります。説明義務の範囲は法律により規定されていますが、実務上は次の点が誤解されがちです。

➡ 「説明していない」「説明と違う」という主観的クレーム
➡ 物件図面の情報と現況の差異
➡ 管理会社からの情報更新が遅れたことによるミス
➡ “現況優先”の意味が曖昧

重要なのは、「説明したかどうか」より“記録があるかどうか”です。対応記録・送付メール・重説控えなどのエビデンスが紛争予防になります。


■ 仲介会社は「代理人」ではなく“媒介者”

仲介会社は、入居者または貸主の「代理人」ではありません。これは2025年時点で一般的に認識されている枠組みであり、法律上も区別されます。

ただし現場では、「仲介会社が言ったことが貸主の総意」と誤解され、トラブルになることがあります。

➡ 委託範囲(どこまで仲介が判断できるか)
➡ 言質トラブル(“言った/言わない”問題)
➡ オーナー判断を仲介会社が勝手に回答しない

判断ができない内容は、必ず管理会社・オーナーに確認する運用が安全です。


■ 契約書・重説と案内内容の「不一致」リスク

2026年は、広告表示・初期費用・設備状況について、“曖昧な表現の排除”が求められる方向性があります。

特にトラブルが多いのは次の3つ。

  1. 初期費用の誤差(「概算」「仮計算」の扱い)

  2. 設備・仕様の説明不足(ネット無料/宅配BOXなど)

  3. 図面と現況の不一致

「現況優先」であっても、説明不足があれば紛争の原因になるため、説明内容の記録(メール・LINEの控え)が最重要です。

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2. 入居希望者からのクレーム対応(2026版)

■ よくあるクレーム

➡ 写真・図面と違う
➡ 初期費用が見積もりと違う
➡ 審査に落ちた理由を説明してほしい
➡ ネット無料が実際は有料だった
➡ 設備が壊れていた
➡ 対応が遅い/連絡がない


■ 2026年対応の実務ポイント

① 対応履歴・相談記録は“労務リスク対策”にもなる

将来的には勤務間インターバルや長時間労働に関する評価も増えるため、長時間クレーム対応の記録は労務管理上の証拠にもなります。

② 夜間クレームは「一次対応の基準」を明確化

2026年は、
➡ 深夜帯の過剰対応
➡ 担当者の長時間拘束
が労務違反に結びつく可能性があります。

例:
・緊急度の低い問い合わせは翌営業日対応
・夜間は「受付のみ」で詳細対応しない
(※企業判断によるため保守的対応)

③ SNS・LINE問い合わせの“即レス文化”に歯止め

即レス要求は、スタッフの健康確保の観点から慎重に扱う必要があります。

「営業時間外の返信については翌営業日の対応となります」と表示する企業も増えています。

④ 判断できない内容は必ず上位へエスカレーション

・退去費用の認定
・設備修繕費
・特約の解釈
など、仲介裁量で判断しづらい場面は、管理会社・貸主の判断を仰ぐのが安全です。

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3. オーナーからのクレーム・要求

■ よくある場面

➡ 審査基準への介入
➡ 広告費(AD)に関する誤解
➡ 内見対応への不満
➡ 値引き交渉の可否
➡ 写真撮影・募集業務への過度要求
➡ 暴言・高圧的要求(カスハラ)


■ 2026年対応ポイント

① 委託範囲を明確化

仲介会社は管理会社ではなく、委託業務の範囲には限界があります。

・設備不良の判断
・クレーム処理
・退去立ち会い
などは管理会社の業務であることを明確に伝える必要があります。

② 連絡は「チャット+書面」でエビデンス化

オーナーとの長時間電話はトラブルの元です。

➡ チャット(履歴として残る)
➡ メール(正式なやり取り)

の併用が安全です。

③ オーナーからの“ハラスメント的要求”への線引き

・過度な要求
・威圧的表現
・長時間拘束
はカスタマーハラスメントに該当する可能性があります。外部ハラスメント相談窓口の設置は、業界で徐々に広がっています。

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4. 管理会社との調整・境界線

■ 仲介と管理の役割の違い

賃貸管理会社は、
・設備不良対応
・入居中のトラブル処理
・契約更新
・修繕手配
を担うことが一般的です。

一方、仲介会社は
・募集
・案内
・契約締結
までが中心です。


■ 2026年対応ポイント

① 一次対応フローの作成

入居者からのクレームが「仲介対応か、管理対応か」迷いやすいため、分岐フローの作成が有効です。

② 曖昧な案件は早期に管理会社へパス

仲介が“中途半端に対応”することでトラブルを長期化させるケースが多いため、判断が難しい内容は、管理側に速やかに引き継ぐ方針が安全です。

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5. 入居審査・反社チェックの扱い(保守的に解説)

■ 審査落ち理由の説明義務

審査理由をしつこく尋ねられると、つい具体的な事情を口にしてしまうことがありますが、地域的・職業的・思想的な理由によるものだと主張されると、対応が非常に難しくなります。
このため、審査理由については「審査は総合的判断であり、詳細はお伝えできません」などと一律にお答えし、個別の理由は回答しない運用とするのが、実務上もっとも安全です。


■ 反社チェック

反社会的勢力の排除は多くの企業で求められていますが、取得する情報は 必要最小限が原則です。

・氏名
・生年月日
・在籍会社の確認
など、一般的に取得される範囲で運用します。(※判断は各社の規程による)

個人情報の保存期間や廃棄手順を保守的に定めることが重要です。

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6. 写真・広告表示の注意点(景表法 × 宅建業法)

■ よくあるNG例

➡「ネット無料」と誤認させる表現
➡ 築年数・面積の誤表示
➡ 退去済みと書きながら内見不可
➡ 初期費用の不明確表示
➡ 新築ではない物件の写真を“見せ物件”として使う


■ 2026年対応ポイント

・募集図面の更新ルール
・写真撮影のタイミング管理
・初期費用は「概算」と明記し、確定額は契約書で提示
・「情報は更新される場合があります」などの注意書き
・AI生成画像の扱いへの社内ガイドライン(重要)

広告の透明性は今後さらに求められる傾向があります。

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7. ハラスメント・カスハラ(入居者/オーナー/同業者)

■ 現場で多い例

➡ 長時間拘束(1〜2時間のクレーム)
➡ 暴言・威圧行為
➡ 過度な値引き要求
➡ SNSでの晒し投稿の示唆
➡“担当者替えろ”圧力


■ 2026年対応ポイント

・記録の徹底(日時・発言・やり取り)
・社内の一次対応マニュアル
・社員保護のための外部相談窓口
・深夜帯は“受付のみ”ルール
・危険事案は管理会社・警察との連携

クレームとハラスメントの境界線を明文化する企業が増えています。

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8. 賃貸仲介スタッフの安全確保

■ リスク場面

➡ 夜間内見
➡ 人気の少ないエリアでの案内
➡ 暴力的な来店者
➡ 不審者対応
➡ 個人情報を狙った来店


■ 実務対策

・夜間内見は複数名対応またはオンライン内見へ切替
・位置情報アプリの使用(任意規程作成が前提)
・防犯ブザー・非常時連絡体制
・内見前の“危険サイン”チェックリスト
・事故発生時の報告ライン整備

安全配慮義務(労働契約法5条)の観点から、現場型業務の安全確保は必須です。特に営業担当が女性であることも多く、法人客と異なり「素性がわからない飛び込み来店客」への対応については、別途マニュアルを作成するなど、安全面を重視した指導を行っておくことが望ましいと言えます。

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まとめ|2026年は法務・労務・安全の三位一体で見直す年

賃貸仲介会社のリスクは、法務(説明・広告表示) × 労務(長時間対応) × 安全配慮(現場業務)が複合して発生します。

2026年に向けて重要なのは次の3点です。

➡ 説明内容・対応履歴の“記録”の徹底
➡ 仲介/管理/貸主の“線引き”の明確化
➡ クレーム・ハラスメント対応の透明性

これらを整備することで、トラブル削減・係争防止・社員保護につながります。

【関連サービス】

・不動産賃貸仲介会社向け法人契約事務代行サービス 
・外部ハラスメント相談窓口
・ハラスメント研修(管理職向け/現場向け)
・就業規則・労働条件通知書の点検
・不動産会社のBCP策定支援


FAQ(よくある質問)

Q1. 審査結果の理由は、入居希望者に伝えないといけませんか?

A. 一般論として、審査理由の説明義務はないとされています。ただし、差別的扱いと誤解される表現は避け、「審査は総合的判断であり、詳細はお伝えできません」と一律で説明する運用が安全です。


Q2. “ネット無料”と書いてよい基準はありますか?

A. 誤認を招く表現は避け、条件や制限は必ず明記することが推奨されます。(例:速度制限、プロバイダ指定、無料期間の有無)


Q3. 夜間クレームにどこまで対応する必要がありますか?

A. 緊急性の高いものを除き、深夜帯は受付のみとし、詳細対応は翌営業日とする運用が一般的です。2026年は勤務間インターバルの観点から、夜間対応の負荷軽減が推奨される場面が増えると想定されます。


Q4. 内見写真と実物が違った場合、仲介会社に責任がありますか?

A. 情報更新の遅れ・管理側の誤情報など個別事情により判断が変わります。重説・契約書で現況優先を説明し、案内時の写真を残すなど、「誤認防止のための努力」を記録しておくことが重要です。


Q5. オーナーからの過度な要求や暴言はどう扱うべきですか?

A. 業務の適切な遂行を妨げる場合、カスハラとして線引きを明確にし、記録を残すことが基本です。必要に応じて外部相談窓口の活用も有効です。


Q6. SNSのDMで問い合わせが来た場合の対応ルールは?

A. 営業時間外は返信しない、個別契約の判断はDMでは行わない、など社内ルールを定めることが安全です。SNSは“非公式チャネル”の扱いが望ましいです。