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【2026年対応版】不動産会社の安全配慮義務とカスハラ対策ガイド|来店対応・内見・クレーム対応の“安全性×透明性”を確保する実務ポイント

2025/11/14

監修:RESUS社会保険労務士事務所(社会保険労務士 山田雅人)


はじめに|不動産会社に求められる「安全配慮×カスハラ対策」の強化

2026年は、働き方関連法の見直しにより深夜対応の抑制・長時間拘束の回避・相談記録の可視化が求められる場面が増えると予想されます。

不動産会社は、次のような“多層的なリスク”を抱えやすい構造です。

➡ 来店者の素性が不明なケースが多い
➡ 夜間内見・現地対応での安全確保が必要
➡ 長時間クレーム・威圧的要求によるスタッフ疲弊
➡ SNS・DM経由の問い合わせが増え、境界が曖昧
➡ 女性営業担当者が増え、安全配慮が重要課題
➡ 反社チェック・審査説明など法務リスクとの複合化

賃貸仲介・管理は 「営業+法務+安全配慮」 が同時に求められる特殊な業界です。

本ガイドでは、不動産会社が2026年に向けて整備しておくべき安全配慮義務・カスハラ対策を“実務に使える形”で体系化 しました。


1. 不動産会社に求められる「安全配慮義務」とは

不動産会社における「安全配慮義務」は、法律上は労働契約法5条(労働者の安全への配慮義務)を根拠とします。従業員の生命・身体・健康を守るため、“予見できる危険”への対策を講じる義務が会社にあります。

そして、不動産会社特有の場面として、次のようなリスクが存在します。


(1)来店時のトラブル

不動産店舗には「事前予約なしの来店」が一般的であり、素性のわからない来客対応が避けられません。

よくあるリスク:

➡ 高圧的・威圧的な態度
➡ 不満を背景とした長時間拘束
➡ 不明瞭な理由による“担当者変更要求”
➡ 個人情報を不適切に聞き出そうとする行為

これらはカスハラ(カスタマーハラスメント)に該当するおそれがあり、スタッフを一人で応対させない長時間対応を避ける運用などの対策が求められます。


(2)内見・案内時の安全確保

内見は、人目の少ない場所にスタッフと顧客が二人きりになる特殊な業務です。特に女性営業担当者が増える中で、安全面の課題は業界内で強く認識されています。

リスク例(一般論として):

➡ 人気の少ないエリアでの単独案内
➡ 依頼者の身分情報が最小限のまま現場同行
➡ 時間帯が遅い夜間内見による不安
➡ “距離感が近い”コミュニケーションの強要

こうした背景から、近年は次の対策を取る企業が増えています。

・夜間内見を制限し、オンライン内見で代替
・女性スタッフは法人案件を中心に担当
・単独案内ではなく複数名同行の仕組み
・位置情報アプリの任意運用
(会社の規程整備が前提)


(3)深夜対応・長時間拘束のリスク(2026年版)

働き方関連法の改正に伴い、勤務間インターバルの確保、深夜帯の過剰対応を避ける体制整備が必要になります。

【想定される実務ポイント】

➡ 深夜帯は「受付のみ」で詳細対応は翌営業日
➡ 長時間クレームは“業務妨害”の懸念として対応記録
➡ SNS・LINEは営業時間外に返信しない方針へ

これらはスタッフの健康確保と安全配慮義務の両面から重要であり、また時間外労働の上限規制・36協定違反リスクを低減する施策としても有効となります。


(4)女性スタッフ保護の観点

不動産会社では、女性営業担当者の増加に伴い「女性だから受けやすいリスク」への対策が求められています。

(※一般的な傾向であり特定の事案とは一切関係ありません)

→ 来店者の過度な距離の詰め方
→ 夜間帯の案内依頼
→ SNSでの個別連絡要求
→ 外出先での不安
→ 依頼者からの性的言動

これらは安全配慮義務の観点から、企業が事前に回避措置を取るべき領域です。予見可能なリスクにかかわらず合理的な対策を講じていなかった場合には、企業は安全配慮義務違反と評価されるおそれがあります。


(5)“二分化”による安全と効率の両立(一般論)

不動産会社の中には、“案件を二つの区分に分け、担当を役割分担する”ことによって安全性を高めている企業があります。

例:

① 素性が明確な法人案件 → 女性営業も安心して対応可能
② 素性不明の一般個人案件 → 男性スタッフ中心に担当

これは「性別役割分担」ではなく、安全配慮義務の観点から“予見可能な危険を減らすため”として運用している例です。具体的な運用ルール化にあたっては顧問弁護士・顧問社労士にご相談ください。


2. 来店対応・店頭応対の安全管理(2026版)

来店対応は、不動産会社にとってもっとも「予測困難な場面」です。事前情報が少ない顧客ほど、安全配慮義務の観点から慎重さが求められます。


(1)来店時の一次対応ルール

来店者に対して、次のような一次対応フローが有効です。

① 受付での情報把握(名前・要件・案内希望有無)
② 1対1対応を避け、一定距離・視認性のある席へ案内
③ 長時間拘束が予想される場合は、上席へエスカレーション
④ SNS・DMから来店したときのルール明確化

とくにSNSやDMからの来店は、【①身元不明+②対応履歴なし+③事前予約なし】となりやすく、トラブル化のリスクが上がります。


(2)危険サインの早期察知

スタッフ教育では、「異変に気づいたらすぐ上席に連絡する」という方針の周知が必須です。

一般的に危険サインとされる例(※特定事案とは一切関係ありません):

➡ 過度な距離感(馴れ馴れしい/プライベートを探る)
➡ 長時間の持論展開
➡ 声量を上げる/急に怒りだす
➡ 個人情報を過度に聞き出そうとする
➡ 断った途端に態度を変える

これらは 「行動変容の兆候」 として扱い、スタッフを一人で対応させないことが重要です。カスハラに対して「それくらい我慢しなさい」との上席からの発言が問題視された裁判例もあり、企業としての対応が問われやすい領域です。


(3)威圧的・高圧的な言動への対応

来店者からの

・「すぐ担当者を変えろ」
・「責任者を出せ」
・「対応が遅い」

といった高圧的要求は、業務が適切に遂行できないレベルに達するとカスハラに該当します。

対応の基本は次の3点:

✅事実を淡々と伝える(感情で応じない)
✅担当者を“即交代”しない(前例化の防止)
✅長時間化しそうなら上長が対応

労働施策総合推進法やこれに基づく指針では、カスタマーハラスメントへの対応も含め、事業主に適切な雇用管理上の配慮が求められています。2026年は、コンプライアンス面とスタッフ保護の両観点からも「長時間拘束」を避ける運用がより重視されると考えられます。


3. 内見・案内時の安全確保(2026版)

内見時の安全確保は、不動産会社にとって最重要課題のひとつです。現場は密室に近く、外部支援が届きにくいため、安全確保の手順化が不可欠です。


(1)単独案内のリスク

内見は次のような特性を持ちます。

➡ 建物内部は人の目が届かない
➡ 鍵を開けて中に入る → “閉鎖空間”が発生
➡ 顧客の素性が不十分なまま案内するケースが多い

とくに女性スタッフの場合、不安を感じやすい場面が多く、業界全体の安全課題になっています。


(2)2026年に向けた安全対策(推奨)

不動産会社で一般的に採用が進む実務的対策は次の通り。

夜間内見は制限し、オンライン内見を積極活用
→ 特に単身女性スタッフには効果大

✅ 素性不明者の内見は“複数名対応”を原則化
→ 予見可能な危険の最小化

✅ 内見前に「危険サインチェックリスト」を運用
→ 来店時の言動・問い合わせ内容から判断

✅ 位置情報アプリの“任意利用”
→ 義務ではなく、希望者のみ利用(労務リスク回避)

✅ 内見スケジュールを社内でリアルタイム共有
→ 緊急時の支援体制を確保

✅ 名札は苗字のみに変更
→ 女性スタッフの個人リスク対策として、SNS特定などのデジタルリスクを軽減(重説・書面での表示は、実務に支障のない範囲でマスキングを検討)


(3)オンライン内見の活用(2026年版)

以前は“対面内見が必須”という雰囲気が強かったものの、近年はオンライン内見が普及し、安全面でもメリットが大きいと評価されています。

メリット:

・スタッフが外に出ないため安全確保が容易
・深夜帯の対応を避けやすい
・法人客にはオンライン内見のほうが好まれる場合も多い


4. カスタマーハラスメント(カスハラ)対応の基準(2026版)

国が公表している「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(厚労省)」を基礎に、不動産業界特有のリスクへ応用します。


(1)不動産業界で多いカスハラ例

厚労省の定義に照らした、一般的に問題となる行為:

➡ 長時間の拘束(1〜2時間以上継続)
➡ 大声・威圧・人格否定発言
➡ 何度も担当者変更を要求
➡ 無理難題(契約の強要、非常識な値引き)
➡ SNSへ投稿すると示唆
➡ 店舗前での執拗な待ち伏せ

これらはすべて「業務の適正な遂行を妨げる要求」としてカスハラに該当する可能性があります。


(2)2026年に必要となる方針

2026年は働き方改革の影響で、深夜対応・長時間対応を避ける体制の整備が重点テーマになると見込まれます。

推奨される社内ルール:

✅ 営業時間外のSNS返信禁止
✅ 深夜帯は“受付のみ”で詳細対応は翌日
長時間化したら上長対応に切り替え
危険事案は「記録 → 上申 → 管理会社または警察連携」の三段階


(3)社員を守るための「記録」の徹底

カスハラは“言った・言わない”になりやすいため、記録の徹底が最大の予防策 です。

具体例:

・日時・対応時間
・会話の要旨
・相手の言動の特徴
・エスカレーションした時間
・対応者の心身負担

記録は労務リスクの観点からも価値があり、勤務間インターバルを侵害する長時間拘束の証拠にもなります。


5. 記録・エスカレーション体制の作り方

安全対策・カスハラ対応は「個人の判断」ではなく「組織の運用」に落とし込む必要があります。


(1)記録ルールの標準化

以下のような項目をテンプレート化する企業が増えています。

・ 顧客の氏名(確認できる範囲で)
・ 来店/内見の目的
・ 危険サインの有無
・ 対応者・対応時間
・ 長時間対応の発生有無
・ 上長へ引き渡した時刻
・ 特段の言動・要求の記録

記録は 「事実を簡潔に」 がポイントです。


(2)エスカレーション基準

社員保護のため、以下のような基準が一般的です。

➤ 一次基準(担当者判断)

・声量が上がる
・要求が過度
・長時間化の兆し

➤ 二次基準(上長へ引き継ぎ)

・1時間以上の拘束
・威圧的言動
・同一要求の反復

➤ 三次基準(管理会社・警察連携)

・脅迫的言動
・危険行為
・つきまとい行為

不動産会社では「長時間拘束」と「威圧的要求」 が特に多いため、基準は明確にしておくべきです。


6. 女性スタッフの安全配慮(責務の強化)

不動産業界では、女性の営業担当・カウンター担当が多く、来店・内見・案内の場面で安全配慮義務が特に重要になります。小規模店舗では営業担当が外出で不在にしており、女性が一人だけになるシーンが想定されます。一人にするとカスハラリスク、男性を待機させるとセクハラリスクとなり、「運用のルール化」は現代では避けられません

2026年以降は、「安全配慮義務(労働契約法5条)」の実質運用が強化される流れがあり、企業として形式的ではない安全対策が求められます。


(1)女性スタッフにありがちなリスク場面

一般的によく問題となる例:

➡ 来店者の馴れ馴れしい言動
➡ 1対1の内見(密室化しやすい)
➡ 人気のないエリアでの案内
➡ SNSでの個人特定
➡ 「担当者個人への依存」的なコミュニケーション
➡ 自宅最寄り駅での“待ち伏せ”リスク

不動産会社は、これらの予見可能なリスクに対して、企業としての対策を講じる義務があると評価されやすい分野です。


(2)安全配慮の実務対応

女性スタッフ保護のために、次のような対策が“実務的に有効”です。

➤ 内見・案内の複数名対応ルール

とくに夜間、または素性不明者の場合は必須。

➤ オンライン内見への切り替え

女性スタッフの身体的負担・危険度を大幅に低減。

➤ 来店対応の席配置(死角を作らない)

視認性の高い席へ案内することで、危険を早期察知。

➤ スケジュール共有・位置情報の“任意利用”

義務化せず、希望者のみ利用することで労務リスクを回避。

➤ 危険サインの教育

営業ロープレで「不穏な言動」を認識させることが有効。


(3)不審者対応の一次ルール

危険が予見される場面では、絶対に“単独判断”させないことが重要です。

① 無理に追い返さない(エスカレート防止)
② 上席へ即エスカレーション
③ 店舗外へ出さない
④ 長時間拘束が始まったら即交代
⑤ 記録を残す

これらは、女性スタッフのみならず全体の安全確保に有効です。


7. SNS・DM・LINE問い合わせへの対応(2026版)

2023〜2026年にかけ、SNS(特にInstagram・LINE・X)のDMからの問い合わせが急増しています。

一方で、SNSは非公式チャネルであり、トラブル化しやすい のが問題です。


(1)DMは“公式窓口ではない”ことを明示

社内規程でも:

「SNSは非公式チャネルであり、契約判断・審査判断はDMで行わない」

と明記する企業が増えています。

DMに応じる場合は、

・営業時間内のみ
・初期案内のみに留める
・契約判断はメールまたは店頭へ誘導

という形が安全です。


(2)即レス要求のコントロール

SNS問い合わせは、「すぐ返してよ」という圧が強く、若手スタッフが疲弊しやすい領域です。

2026年は勤務間インターバルの観点からも、店舗・スタッフの“深夜即レス文化”は見直しが求められる方向性 があります。数年前まではHPやSNSからの見込客からの問い合わせには「半日以内に返信」をルール化している仲介会社もありましたが、現在は返信時間ではなくスタッフの休息を優先し、「午後の問い合わせは翌日以降になることがある」運用へ切り替える企業も出てきています。


(3)SNSでの“晒し投稿”への備え

不動産業界では、「担当者の対応が悪い」とSNSでの晒し投稿を示唆されるケースもあります。

対応の原則は:

① 威圧的言動の記録
② 社内エスカレーション
③ 管理会社・貸主と情報共有
④ 必要な場合のみ法的助言へつなぐ(弁護士判断)

SNSを“脅しの手段”として使う行為は、一般的にカスハラの一類型として扱われます。


8. 事故・トラブル発生時の対応(2026版)

事故・トラブルが発生した場合、一次対応の質が“企業責任の評価”を左右 します。


(1)事故発生時の基本フロー

一般的に推奨される構造は以下の通り:

① スタッフの安全確保(最優先)
② 状況の記録(写真・メモ)
③ 管理会社・貸主への即時報告
④ 社内共有(責任者)
⑤ 入居者・来店者へのフォロー
⑥ 再発防止策の検討

とくに①の「スタッフ自身の安全確保」は最優先となり、顧客対応より優先される領域です。


(2)「スタッフの心身不調」が発生した場合

クレームやカスハラにより、スタッフが

・眠れない
・出勤困難
・通院が必要

といった事態に至った場合、企業として適切に調整する義務が生じる可能性があると判断されます。

2026年はこの分野の関心が高まると予想されるため、メンタル不調の早期吸い上げ制度 を導入する企業も増えています。


9. BPO型「法人契約事務代行サービス」を活用

ここからは、当社が実施している転勤者・単身赴任者に関わる法人契約部分を外部委託するBPOサービス「法人契約事務代行サービス」について、“安全配慮”との関係から簡単にご紹介します。


(1)法人客の割合が増えると、現場安全は向上しやすい

一般論として、不動産会社では飛び込みの個人客よりも、法人客のほうが情報が明確で予測可能性が高いという傾向があります。

そのため、結果的に:

・夜間内見が減る
・素性不明者対応が減る
・女性スタッフのみの対応リスクが減る
・トラブル件数が下がる

といった効果が期待できます。


(2)法人契約事務代行(BPO)を導入する企業が増加

転勤者・単身赴任者向けの法人契約を専門に扱う「法人契約事務代行(BPO)」サービスを利用する企業が増えています。

背景:

・営業担当者の事務負担軽減
・全国転勤者のスムーズな入居
・物件選定・顧客対応サービスへの注力
・全社的な総実労働時間の短縮

不動産会社にとって、法人客の増加は収益安定性・安全性・業務効率の向上につながることが期待され、導入企業が年々増加しています。

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(3)安全配慮義務・カスハラ対策との相乗効果

法人契約が増えることで、

・来店者情報が事前に共有される
・身元が明確(法人依頼書に正確な個人情報が記載)
・コミュニケーションが合理的
・時間外対応が減少(成約率の向上)

といったメリットが見られ、安全配慮義務への対応としても効果があります。


まとめ|2026年は「安全配慮 × カスハラ対策 × 労務管理」の総合見直しへ

2026年は、働き方改革・SNSコミュニケーションの普及・深夜対応の見直しなど、不動産会社の業務環境が大きく変わると予想されます。

不動産会社が重点的に整備すべきポイントは次の3点です。

➡ 現場の安全配慮(内見・来店対応)
➡ カスハラの線引き・記録・エスカレーション体制
➡ SNS・DM等の非公式チャネルの整理

これらを整備することで、社員保護・トラブル削減・業務効率化につながり、企業全体の安定運営が実現します。


FAQ(よくある質問)

Q1. 夜間内見は必ず禁止にすべきですか?
A. 一律禁止は求められていませんが、安全配慮義務の観点から「夜間は複数対応またはオンライン内見へ切替」とする企業が増えています。


Q2. DMからの問い合わせにも即レスする必要がありますか?
A. 営業時間外の対応義務はありません。むしろ即レスは負担が大きく、深夜対応のトラブルや長時間労働につながるため、営業時間内対応のみとする運用が安全です。


Q3. オーナーからの暴言・威圧的要求もカスハラになりますか?
A. 業務遂行を妨げるレベルの要求は、一般的にカスハラに該当します。記録 → 上長 → 管理会社連携の順で対応することが推奨されます。


Q4. 女性スタッフが不安を感じた場合、どう対応すればよいですか?
A. 単独対応を避け、即座に上席に相談し、状況を共有することが基本です。必要に応じて複数対応・オンライン化へ切り替える運用が安全です。


Q5. 法人契約を増やすと安全対策になるのですか?
A. 個別結果を保証するものではありませんが、一般論として 素性不明者対応が減り、危険予測がしやすくなる傾向があると言われています。