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宅建試験の合格祝い金を支給するとき(報奨祝金と税・社会保険料)

2019/11/26

(最終更新日:2022/4/1)

毎年11月は宅地建物取引士試験の合格発表シーズンです。受験生たちは既に自己採点で結果はわかっているはずですが、いざ手元に合格通知が来るとひとしおの喜び、残念ながら合格できなかった人はもう一度落ち込む時期です。

さてご存じ、不動産会社を経営するためには一定人数以上の宅地建物取引士(宅建士)が必要で、宅建士がいなければ事業活動を行うことが法律上許されていません。一定の従業員に対して有資格者の要件がある『必須資格』の維持はコストもかかります。不動産業経営者の理想としては宅建資格を持った人に限定して採用できれば言うことなしですが、現実的にはそうもいきません。今は持っていなくても、いずれ試験に合格し、立派に活躍してくれることを願って無資格者を雇用することもありますが、学費の援助を行ってもなかなか合格してくれない。合格しないなら費用の支援は無駄だと、『合格したら報奨金を出す』ことにしている会社も多くあります。業務独占・名称独占資格である宅地建物取引士の育成は不動産業者の将来の事業活動にとっても欠かすことはできませんが、合格祝い金(報奨金)を支給する際の課税関係、社会保険料についてはあまり知られていません。今回は不動産業者の宅建試験合格祝い金に限定して報奨金の控除関係について基本を確認していきます。

所得税の課税関係

所得税は原則として、会社から従業員に対して支払いされる金銭だけでなく、食事や衣服、住宅を提供するなど経済的利益や個人の債務免除に対しても課税されますが、一定の要件を満たせばその例外として課税しないこととされています。資格取得に対する教育費用についても所得税の課税としない例外規定が設けられています。

1.会社の仕事に直接必要な技術や知識を、従業員に習得させるための費用

1.会社の仕事に直接必要な免許や資格を、従業員に取得させるための研修会や講習会などの出席費用

1.会社の仕事に直接必要な分野の講義を、従業員に大学などで受けさせるための費用

使用者が自己の業務遂行上の必要に基づき、役員または使用人に当該役員又は使用人としての職務に直接必要な技術もしくは知識を習得させ、又は免許若しくは資格を取得させるための研修会、公衆回答の出席費用又は大学等における聴講費用に充てるものとして支給する金品については、これらの費用として適正なものに限り、課税しなくて差し支えない。【国税庁通達36—29の2】。

試験費用の負担など同額の経費負担であれば問題ありませんが、それでは試験に対する従業員のモチベーションが上がらないかもしれません。事業主としてはある程度のインセンティブを付加して支給したいところですが、『費用が適正』でなければ課税されます。不動産業者における宅建資格は職務に直接必要な資格ですので、教育費用の補助は非課税扱い、会社も福利厚生費として経費計上可能と考えられますが、はたして合格祝い金は『費用として適正な範囲』に該当するでしょうか。税理士や税務署に確認したところで絶対OKな回答を得ることはできませんので、数万円程度の額に抑えておく必要があります。もちろん、規則によって合理的な説明ができなければ簡単に否認されますので、実費を大きく超えるような額を支給する場合には規則の整備等をしっかり作り、合理的な根拠の明示が可能なよう準備しておかなければなりません。

宅建合格祝い金は課税、但し、適正な範囲での経費支援は福利厚生費として経費計上可能となります。

社会保険料との関係

社会保険料も所得税の課税関係同様に、会社が従業員に支給するものについては報酬と扱い、社会保険料を負担しなければなりませんが、こちらも例外があります。試験合格祝いについては社会保険料を負担するべき『報酬』と該当するかどうかについて確認が必要です。

厚生年金保険法第3条及び健康保険法第3条で『報酬』とは、「賃金、給料、俸給、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受ける全てのものをいう。但し臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものはこの限りではない」と規定され、同じく社会保険料を負担すべき『賞与』に関しても「労働者が労働の対償として受けるすべてのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう。」とされています。臨時に受けるものとは、「厚生年金保険の疑義照会」によると、「金額の大小に関係なく、支給事由の発生、原因が不確定なもので、例年支給されていないか、支払われる時期が決まっていないか」で判断するとされています。

また、『労働の対償』とは、

①過去の労働と将来の労働とを含めた労働の対価

②事業所に在籍することにより事業主より受ける実質的収入

とされています。

但し例外的に恩恵的に支給するものは社会保険法上の報酬及び賞与から除外する(昭和18年1月27日保発第303号)とされ、「結婚祝金」や「慶弔費」などは社会保険法上の報酬にも賞与にも扱われません。

前置きが長くなりましたが、宅建試験合格に関する報奨金(祝い金)が労働の対償に該当するか、臨時に受けるものか、恩恵的なものに該当するか考える必要があります。いわゆる社会保険における『大入袋』の問題となりますが、結論としては宅建試験の合格祝い金は賞与に含まれることになります。

一般的な感覚として資格試験合格祝い金については労働の対価とは考えにくく、恩恵的なものと考えられなくもないですが、社会保険法上の賞与と扱われない労働の対償から除外できるものは狭義で考えられているため、宅建試験合格に関する報奨金は将来の労働の対価にも該当し『大入袋』と考えるのは難しく、賞与として社会保険料の控除が必要となります。実務上は数万円程度であれば報酬除外扱いしているところもありますが、調査で追及される可能性があります。なお、労働保険(労災保険・雇用保険)の扱いについては宅建試験の合格祝い金は『奨励金』として労働の対価と認められないため労働保険法上の賃金総額に含める必要はありません。(毎月の手当であれば算入)

(日本年金機構『疑義照会と回答』)

https://www.nenkin.go.jp/info/gigishokai.html

まとめ

不動産業者の宅建合格祝い金の結論としては、費用が実費弁償を大きく上回るほどの高額でなければ実務上は非課税・社会保険料も除外しているところは多くありますが、費用が高額な場合には年金事務所からの遡及支払い、税務署から不納付加算(10%)として追及される恐れがあります。社会通念上一般的な額については常に疑問が残りますが法律には明記されていません。また祝金は就業規則類に定めが無く任意・恩恵的支給であれば賃金に該当せず労働・社会保険料から除外となりますが一方で課税関係上の必要経費としての根拠が失われるため、あまり派手な支給をしないことが大切です(ガッカリ!!)。

特定一般教育訓練給付金

2019年10月より、旧来の一般教育訓練給付金を充実、特に資格と業種・職種の関連性が高いものに対して『特定一般教育訓練給付』制度が実施され、宅地建物取引士試験も指定講座として経費の4割支給されることになりました。雇用保険から個人に支給されるものですが、在職中の社員も被保険者期間の一定要件を満たせば受給できるものですので事業主の皆様も従業員の資格取得促進に是非活用ください。

おわりに

期待した成果を出した従業員に対して褒美を取らせることに異論はありませんが、課税関係、社会保険料が常に付きまとう問題です。控除される金額をあらかじめ算定したうえで上乗せして支給する方法も当然考えられますが、税・社会保険料を理解せずに大手を振って支給していればいずれ問題を指摘されることになります。社員のためを思ってのことですが思わぬ落とし穴があるため、支給には十分ご注意ください。

 

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【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所/山田雅人(宅地建物取引士・社会保険労務士)
大企業・上場企業を中心に10年にわたり全国500社以上の人事担当と面談、100社以上の社宅制度導入・見直し・廃止に携わった経験を活かし、不動産仲介業者に向けた事務代行サービスの提供、不動産業専門に特化した社労士として不動産業者の働き方改革を支援しています。

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