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転勤支度金は全額支給して大丈夫? 所得税・社会保険・労働保険の取り扱いを徹底解説【2025年版】

2019/09/10

(最終更新日:2025/08/14)

転勤に伴って支給される「支度金」や「赴任手当」。その税務・社会保険上の取り扱いを誤ると、会社にも従業員にも大きな負担が発生する可能性があります。

『結論:実費弁償の範囲であれば、課税対象外』

転勤時に支給される一時金(支度金や赴任手当)は、実費弁償の性質がある場合には、所得税や社会保険料・労働保険料の課税対象外となります。ただし、支給額が過大な場合や支給の根拠が曖昧な場合は課税対象となるリスクがあるため、制度設計には注意が必要です。

転勤時に支給される主な一時金の種類

企業によって呼び方は異なりますが、転勤時に支給される費用補填の一時金として、以下のようなものがあります:

  • 支度金(赴任準備金)

  • 転勤旅費(引越し費用や交通費)

  • 赴任手当(単身赴任手当など)

  • 地域手当・寒冷地手当

  • 住宅補助・家賃補助

転勤による負担は大きく、家財や電化製品の買い替え、引越し業者への支払いや交通費など多岐にわたります。SNSでは「転勤リッチ」「転勤貧乏」などの声も見られ、企業側にとっては支給額の公平性やモラルの管理も重要課題となります。
ただし、これらの支給は法的に義務付けられているものではないため、各社で内容や金額に差があるのが実情です。

 

所得税の取り扱い(非課税となる要件)

所得税法上、以下の条件を満たす転勤支度金は非課税として扱われます。

✅非課税となる条件(所得税法9条・基本通達9-3)

  • 転勤に伴う実際の支出(引越し費用・交通費など)の補填であること

  • 「通常必要と認められる範囲内」での支給であること

  • 支給額が適正であると説明できること(他社比較・社内基準あり)

【注意】一律定額制で支給額が高額な場合や、家族構成・転勤距離に関係なく支給していると、税務署から課税を指摘される可能性があります。

所得税法基本通達9-3

 

社会保険の扱い(報酬とみなされるか)

健康保険法および厚生年金保険法では、報酬とは「労働の対償として支払われる金品すべて」とされています。

✅社会保険料の対象とならないケース

  • 一時的・臨時的な支給であり、労働の対償ではないと認められるもの

  • 実費弁償の性質が明確である(=領収書または社内精算基準あり)

「転勤支度金」は一般的に賞与ではなく、実費補填的な臨時給付と判断されることが多いため、社会保険料の対象外とされるケースが大半です。ただし、支給の頻度や実態により報酬とみなされる可能性もあるため、注意が必要です。

 

最も負担している現在の会社員にはあまり知られていませんが、2003年(平成15年度)より社会保険料は賞与も含めた『総報酬制』に変更され、報酬とみなされる全てのものは社会保険料の対象となり、年4回以上毎月支給されるものは定時決定による標準報酬額に基づき社会保険料を徴収、年3回以内に支給されるものは標準賞与額に基づき社会保険料が徴収されます。

 

労働保険の取り扱い(雇用・労災保険)

労働保険料(雇用保険・労災保険)は、賃金総額に保険料率を掛けて計算します。
ここで言う「賃金」もまた「労働の対償として支払われたもの」が対象です。

✅ 労働保険料の算定対象外となる一時金の条件

  • 一時的・臨時的であること

  • 実費弁償に該当すること

  • 継続的・固定的に支払われていないこと

ただし、単身赴任手当など月額で継続的に支給されるものは、賃金として労働保険料の算出基礎に含まれます。

賃金月額の算定の基礎となる賃金の範囲(平成24年4月告示)

(雇用保険法第4条4項)賃金とは、賃金、給料、手当その他名称の如何を問わず、労働の対償として事業主が労働者に支払うすべてのものをいう。

《参考》賃金総額に算入される・されない手当一覧(抜粋)

含まれるもの 含まれないもの
基本賃金(時給・月給) 役員報酬、退職金、見舞金等
通勤手当(非課税分含む) 出張旅費・宿泊費などの実費弁償
各種手当(扶養・地域・住宅など) 工具手当(自己負担分の補填)
賞与、精勤・皆勤手当 傷病手当金、解雇予告手当

 

ここがポイント(まとめ)

項目 実費弁償の範囲なら課税対象外?
所得税 ✅通常必要と認められる範囲なら非課税
社会保険料 ✅一時的・実費なら対象外
労働保険料 ✅実費補填なら算定外。ただし定額手当は対象
支給名目より「実態」が重視されます。過大な一律支給には注意が必要であり、支給根拠・算出基準を整備することが重要です。

制度設計時の注意点

  • 税務署や年金事務所からの調査時に備え、論理的な支給根拠を社内規程で明文化しておく

  • 支給基準が曖昧・過大な場合は、源泉徴収・社会保険加入漏れを指摘されるリスクあり

  • 判断が難しい場合は、社労士・税理士などの専門家へ相談を

【監修者コメント】

転勤支度金は企業によって運用にばらつきが大きい領域です。非課税扱いとするには「実費弁償」としての性質を持たせ、透明性ある制度設計が不可欠です。

【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所 / 山田雅人(社会保険労務士・AFP・宅地建物取引士)
上場企業や中小企業を中心に、延べ500社以上の人事制度支援実績を有する社労士。特に福利厚生領域に精通し、借上げ社宅制度や転勤制度に関する実務支援を多数手がける。

よくある質問(Q&A)

Q1. 転勤支度金は「いくらまで」なら非課税ですか?

A. 明確な金額上限は法令上定められていません。
ただし、「通常必要と認められる範囲内」とされており、距離や家族構成などに応じて社内基準を設け、過大でないことを説明できる必要があります。

Q2. 実費の領収書がないと課税対象になりますか?

A. 原則として実費弁償性を証明できる方が望ましいですが、国税庁も少額雑費などでは領収書を求めていない例もあります。
支給額が合理的であり、説明可能なルールが社内にある場合は問題にならないケースが多いです。

Q3. 毎月支給する「単身赴任手当」はどうなりますか?

A. 月額で継続支給されるものは「労働の対償」とみなされ、所得税・社会保険・労働保険のすべての課税対象となります。
この場合は実費弁償ではなく、給与として処理されます。

Q4. 支給時に源泉徴収する必要はありますか?

A. 非課税扱いできる転勤支度金であれば源泉徴収は不要ですが、実費を超えた部分や給与的性質を持つ支給については源泉徴収が必要になります。税理士への事前確認が安全です。

「この記事を読んで、自社の制度が法的に問題ないか不安になった」「転勤者への支給ルールを見直したい」
そんなときは、実務に精通した社会保険労務士にご相談ください。

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