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借り上げ社宅制度を導入する際の基本と手順(規程ひな形)

2019/08/25

中小企業・ベンチャー企業にも広がる借上げ社宅制度

社宅制度が企業にとってメリットが大きいことはよく知られています。最近では中小企業でも節税対策、社会保険料の負担軽減や優秀な人材確保を目的として社宅制度のほか、様々な福利厚生制度を充実させる会社が増えています。また、待機児童解消のための保育士確保を目的として横浜で実施された『保育士宿舎借り上げ支援事業』の成功に伴い東京、神奈川、埼玉、千葉から関西圏にまで広がり、京都、大阪の他全国の自治体が補助金を用意しているほか、東京では同様のスキームで『介護職員宿舎借り上げ支援事業』も実施されており、ケアサービス経営の強い支援に借上げ社宅制度が活用されています。

厳しい採用難を勝ち抜く中小企業の戦略として今や福利厚生制度の充実は欠かせません。借上げ社宅に関する税法上や社会保険法上のメリットについては多く情報があふれていますが、実務については情報が少なく、誤った運用を行っている会社も多く見かけます。借上げ社宅制度の安全で効果的な運用にむけて、基本的な事項を確認していきましょう。

借上げ社宅制度の要件

✅会社名義での契約

社宅として認められるためには、会社名義での契約が前提条件となります。また、本人が勝手に探してきた住居を会社契約にするだけでは不十分で、「会社が提供した物件」である必要があるため、不動産会社を指定したり、エリアや通勤時間に制限を設けるなど、あくまでも事業目的のため個人の選定の自由度については一定の制限をかけておくのが安全な運用です。程度の低い不動産業者に取引を任せると入居者や不動産業者に都合のいい契約条件に変更するなど、制度の悪用が後を絶ちません。

よくある制度の悪用(募集条件の変更)

✖自己負担区分の家賃込み契約(駐車場代など)

✖一時金の上乗せ(家具代や広告料の上乗せ)

✖家賃減額分の礼金上乗せ(入居者負担額の調整)

✖個人リベート(契約の誘引行為)

✖契約条件の虚偽報告(規程範囲内の書類調整)

これら募集条件の変更は不当利得として返還請求するだけでなく内容によっては解雇も可能な懲戒事由となりますが、一方で業者を指定せず本人任せであったり、規定が厳しすぎて該当物件が無い場合など、運用上の問題が疑われるまま処分すれば行き過ぎた懲戒として従業員から訴えられる可能性もあります。運用上のルール作りは厳しくて当然ですが、合理的な理由のある場合には緩和するなど、社宅運用のマネジメントも必要です。

✅入居者負担(社宅利用料)

自己負担額をできる限り少なくしてあげたい親心は理解できますが、全額会社負担では社宅として認められず、後で発覚した際には遡及しての追徴など、重いペナルティがあります。『賃貸料相当額』の1/2以上を個人に負担させるなどそれぞれに要件がありますが、税法上・社会保険法上の入居者負担額の算出は家主の協力と、極めて複雑難解な計算方法が必要なため、簡易処理として賃料と共益費を合わせた20%以上を自己負担としておけば行政官庁から指摘されることはありません。反面、家賃の大半を入居者が負担する場合には借地借家法上の居住権が発生し退職の際などの退去に対する会社の強制力が失われるため、適度なバランスの負担が必要です。中小企業では共益費を含む賃料の半額負担とするのが一般的です。

✅社宅規程の設置

会社の会計上の扱いや社会保険法上の報酬除外とするためには根拠が必要です。社宅制度は就業規則の『相対的記載事項』に該当し、全従業員を対象とするものであれば就業規則への記載が必要ですが、実務上は、別紙(付則)の社宅規程で運用している会社がほとんどです。なお、労使協定の締結無く自己負担額を給与から控除(天引き)することは法律違反になるため、自社の状況に合わせて「就業規則(付則)への記載」、「労使協定の締結」、「入居誓約書による個別合意」の3点を意識した規定づくりをお勧めしています。

社宅制度のメリット

☑採用戦略上の優位性向上

☑社会保険料・税金の節約

☑従業員(役員)の手取り額増加

社宅制度のデメリット

1⃣退職時の退去

従業員が退職する場合にはそのまま住み続ける希望があった場合でも会社契約を終了させる必要があります。退去時の原状回復費用の妥当性、敷金の清算方法については管理会社の協力が必要なため、実務運用上は一定の不動産経験が必要になります。

2⃣社宅契約の管理コスト増加

法人名義で契約する以上、管理や運用は自社で行う必要がありますが、住居の賃貸契約は初回契約だけでなく、更新業務や解約業務のほか、支払調書の提出義務、クレームの窓口や物件に対する損害賠償責任が生じるため保険管理も行わなければなりません。規模が50室程度になると負担も増大し、ほかの業務にも影響を及ぼすため社宅代行会社への外部委託を検討しましょう。

3⃣未払い自己負担金の回収

新入社員に住居を用意したにもかかわらず、入社しなかった場合には短期解約による違約金が発生することがあります。また、退去後の原状回復費用のうち自己負担額はすぐに処理を行わなければ連絡が取れなくなったりして回収不能になります。本人が納得しないまま最後の給与から控除することは許されないため、速やかな判断と処理が求められます。

注意事項

☑公平さに合理性があること

一部の社員だけ、役員だけに特別な住宅(豪華社宅)を利用させている場合には行政官庁の調査が入った場合に制度自体が否認されるだけでなく、従業員間の不満を増加させることにもなるため、入居できる従業員の範囲には公平さに一定の合理性が必要です。

(合理的な範囲例)

・入社●年までの従業員、入社●年経過の従業員を対象

・役職による範囲

・年齢による範囲

その他同一労働同一賃金に係る法施行、判例をふまえ、アルバイトや有期雇用従業員という理由だけで社宅利用対象外にすると紛争時に企業側が劣勢に立たされますので、労働契約の区分によって範囲外とする場合には十分な考慮が必要です。

☑労使協定と入居誓約書

法律上控除が認められた金銭(所得税、住民税、社会保険料等)を除き、労使協定無く給与から一方的に控除することは認められません(労働基準法24条)。従業員代表の選出、控除の同意(入居誓約書等)で手続きを押さえておかなければトラブルとなるため簡易なものでよいので労働者代表と締結しておきます。

☑負担額と負担の範囲

賃貸住宅契約には様々な費用が掛かりますが、なんでも会社で負担できるものではありません。例えば、水道光熱費などを会社で負担させることは現物給付とみなされ課税、社会保険料の負担が発生するほか、家具・家電などでも必要に合理性が無ければ給与として扱われます。鍵代やハウスクリーニング代を会社で負担することは問題有りませんが、負担額の上限や負担する項目の範囲はできる限り付則や細則で明確(会社負担区分を限定)にしておく必要があります。

☑就業規則上の記載

就業規則を変更する際には従業員代表による意見の聴取、労働基準監督署への届出が必要となり、また会社の都合で一方的に変更すると労働契約法上の不利益変更とみなされ変更自体が無効となるため慎重な作成が必要です。住宅は労働者の生活に与える影響が大きい項目のため、自己負担額の増額や範囲の縮小は基本的に認められないと理解しておかなければなりません。つまり、制度の導入時点から大風呂敷をひろげないよう、初めはできる限りスモールスタートすることをお勧めしています。肥大してしまった制度のスリム化は規模が大きくなってからでは大変なエネルギーを要するうえ、一部の従業員の反発で変更が白紙となります。

借上げ社宅規定例(ひな形)

借上げ社宅管理規程(従業員用)
第一条(目的)
この規程は、当社従業員に対する福利厚生の向上を目的とした借上げ社宅の管理について必要な事項を定めたものである。
第二条(入居資格)
借上げ社宅への入居資格は、独身者または配偶者および同居する家族がいる従業員であって会社が認めた者とする。
第三条(入居への申し込み)
1. 借上げ社宅への入居を希望する従業員は「社宅利用申請書」に必要事項を記入の上、所属長を経由して会社へ申し込むものとする。
2. 入居を許可された者は、直ちに「入居誓約書」を会社に提出しなければならない。
第四条(入居制限)
借上げ社宅の入居期限は、入居後〇年とする。入居期限が満了したときはただちに退去しなければならない。但し会社の書面による許可をえたときはこの限りではない。
第五条(入居期限)
借上げ社宅への入居を許可された者(以下、「使用者」という)は、会社の指定した日までに入居しなければならない。
2. 会社の指定した日までに入居しないときは、入居を取り消すことがある。
第六条(同居人の制限)
借上げ社宅に同居させることのできる者は使用者の家族又は使用者が扶養する者とし、原則として次に掲げる者以外許可なく同居させてはならない。
①配偶者
②子
③本人および配偶者の親
2. 同居人に異動があった場合は、その都度速やかに会社に届け出なければならない。
第七条(社宅の使用料)
1. 借上げ社宅の使用料は、共益費(管理費)を含む月額賃借料の〇〇%とする。
2. 入居月、退去月が1か月に満たないときは、日割計算による。
第八条(使用料の徴収)
当月分使用料は、使用者の当月分給与から控除して徴収する。
第九条(費用負担)
使用者は、個人にかかわる下記の費用を負担しなければならない。
①電気、ガス、水道等の光熱費
②町内会費
③その他会社が入居者の負担を必要と認めた費用
第十条(仲介料、敷金等)
住宅を借り上げる際に不動産仲介業者に支払う仲介手数料ならびに家主に支払う敷金、礼金(権利金)のほか、鍵交換費用は、会社が負担する。その他借上げ社宅の契約締結に必要と認められる費用については会社の承諾を得た場合に限り会社が負担する。更新料・更新事務手数料があるときはそれぞれ会社と使用者で折半負担とする。
第十一条(使用者負担)
障子等の張り替え、ガラス戸の入れ替えその他軽易な修理費用は、原則として使用者の負担とする。
第十二条(善管注意義務)
使用者は、善良な管理者の注意をもって社宅を使用し、円満な隣人関係を営まなければならない。
第十三条(禁止事項)
使用者は会社の承諾なく以下の各号に定めることを行ってはならない。
①借上げ社宅を第三者に転貸すること
②会社の許可を得ず、定められた以外の者を同居させること
③借上げ社宅を他の目的に使用すること
④借上げ社宅の増改築、模様替え、施設(鍵含む)および敷地の現状を変更すること
⑤周辺の住民に迷惑となる行為を行うこと
2. 前項に違反した場合は社宅を退去させるものとする。
第十四条(損害賠償)
使用者が故意または過失により、建物を破損または建物の全部若しくは一部を滅失させたときは、使用者の負担により修理修繕、またはその損害を賠償するものとする。
第十五条(退去)
使用者がこの規程に違反する行為をしたとき、または借上げ社宅の使用について社会通念上不都合な行為を行ったときは、会社は当該使用者に対し、借り上げ社宅からの退去を命令する。
第十六条(退去と退去期間)
使用者が以下のいずれかに該当するときは、次に定める期間内に借り上げ社宅を退去しなければならない。
①前条により退去を命令されたとき・・・2週間以内
②会社を解雇されたとき・・・2週間以内
③自己都合で退職したとき・・・2週間以内
④定年退職したとき・・・1ヵ月以内
⑤会社都合により退職したとき・・・1ヵ月以内
⑥死亡したとき・・・1ヵ月以内
⑦入居期限が満了したとき・・・2週間以内
但し、使用者が社宅に関する一切の権利義務を継承し、その旨家主が承諾し、金銭債務について会社に返却した場合は自己の名義をもって居住を継続することができる。
第十七条(原状回復義務)
使用者は、借上げ社宅を退去するときは、使用者の責に帰すべき事由による破損、汚損等を自己の費用で原状に回復しなければならない。
第十八条(退去届)
使用者は、自己の都合により借上げ社宅を退去するときは、退去日の1か月以上前までに会社に「借上げ社宅退去届」を提出しなければならない。
第十九条(立ち退き料、引越料の請求)
使用者は、借上げ社宅からの立ち退き料および引越料等いかなる名目による金銭または物品を一切請求せず、また会社は一切支給しない。

付則 この規程は、令和〇年〇月〇日から施行する。

役員に対して特別な社宅(豪華社宅)を提供する場合は税法との適合性に注意を払わなければなりませんが、通常一般的な住居(99㎡以下)を貸与する場合には従業員用を役員用に転用して問題有りません。なお、将来のことをふまえると規則は兼用ではなく、別々で用意しておくことがよいでしょう。

社宅入居時の引越し費用について

転勤や遠方社員の呼び寄せがある会社は転居に係る引越し費用を負担している企業も多くあります。引越し費用の会社負担についての要件についても社宅契約と類似していますので、社宅規定を作成する際に合わせて作成するのが通常です。なお、事業に関連する引越し費用であれば所得税法上も社会保険法上も認められる範囲が広いため、ほぼ全額が経費として計上できます(立替の実費弁償も同じ)。

ここ3~4年前から引越し業界も働き方改革に伴い、春のシーズン、特に3月末から4月初旬までの転勤引越しの依頼を断る業者が多発し、赴任日に着任できない事態が多く大混乱が発生しました。例年同一時期に一定数の転勤が発生する企業であれば個人に任せずに、引越し会社と会社で前もって専属契約を締結し、従業員が安全で、快適に着任を進めることができるよう準備しておくことも必要です。

借上げ社宅費用の仕訳

社宅家賃は居住用のため非課税仕入で処理し、従業員から徴収した社宅使用料は地代家賃のマイナス処理または営業外収入の「受取家賃」のほか「雑収入」など適当な勘定科目(非課税売上)で処理します。借上げ社宅家賃の勘定科目については「地代家賃」のほか「福利厚生費」や別科目を設定しているところも多いので、会社のルールに従って処理すれば問題有りませんが、契約時の一時金について礼金が20万円未満の際は一括経費処理(法人税法施行令134)、20万円以上の場合は長期前払費用として資産計上し契約年数(一般的には2年)で償却処理が必要です。なお、敷引のように返還されないことが確定しているものは礼金同様の取扱として処理するほか、最近はほとんどありませんが、敷引と礼金の両方が発生する場合は合算して判断します。

おわりに

県をまたぐような事業所が無く転勤に伴う転居が想定されない中小企業や、役員しかいないような小規模事業所でも社宅制度を活用する会社が増えました。税金や社会保険料の節約方法は多くありますが、8割以上を経費扱いできる社宅制度ほど節約できる額が大きくなる方法は他になく、『違法な方法ではないか』と疑うほど驚かれる事業主もいます。もちろん、個人事業でも従業員に対する社宅は税務上認められるため、正しく運営することができれば企業にとってこれ以上ないほどの心強い制度となることは間違いありません。規模の大きさは問われませんので、皆様の事業でも専門の社会保険労務士と相談のうえ是非導入を検討ください。

 

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