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不動産業と時間外労働の上限規制(働き方改革関連法)

2019/10/11

時間外労働の上限規制に不動産業者はどう対策すべき?

働き方改革関連法の施行に伴う『時間外労働の上限規制』によっていよいよ2020年4月1日から中小企業に対しても時間外労働時間の上限が「罰則付き」で適用されることになります。不動産仲介業や引越し業や文具メーカーなどの他、人事部など繁忙期に伴う長時間労働が発生しやすい業務を扱う業種も法改正の内容を十分に理解したうえで運用を行わなければ法律違反による行政指導の他、労働者からの訴訟リスクを高い確率で抱えることになります。中小規模の不動産仲介業者にとって極めて厳しい法規制となりますが、施行された以上従う以外に方法はありません。時間外労働上限規制の基本とリスクを十分踏まえながら見直しを進めていく必要があります。

労働時間の原則と例外

労働基準法上の労働時間制限は一日8時間、一週で40時間、一週間に一日(または4週間に4日)の休日を与えなければならないとされていることはよく知られています。ただし、現実的に難しい多くの事業者のため、時間外労働を行う場合には労働者代表と事業主による労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署長へ届出を行うことによって時間外労働(残業)させることができる例外が条件付きで認められています。さらに例外の例外として、特別な条項を定めた場合にはさらに36協定の制限を超える時間外労働(特別条項付き36協定)を締結することができ、今までは適当な理由やでたらめな時間外労働時間であっても受理された特別条項付き36協定が今後は厳しく制限されることになります。

法改正前までは厚生労働省による基準告示が存在しましたが罰則が無く、事実上の強制力が無いため労働基準監督署は企業から過労死ラインを大きく超える時間外労働の36協定を提出されても受理しなければなりませんでした。誰もが知る大手上場企業であっても時間外労働を命じることができる36協定の特別条項によって月100時間、年間1,000時間は当たり前。月200時間、年間2000時間を超える締結を行っている会社が新聞等で報道され大きなニュースになりました。事実上青天井だった長時間労働は、過労死を防止するため厳格な法律改正が進められ、大企業は2019年4月1日から、中小企業は1年間猶予され2020年4月1日より罰則付きの法律として施行されることになりました。そのうち建設業や自動車運転業務、医師など諸事情のある業種も2024年までに適用が進められます。

時間外労働上限規制最大のポイント

✅時間外労働の上限(限度時間)は月45時間・年360時間となり、『臨時的な特別の事情』が無ければこれを超えることはできない

✅時間外労働と休日労働の合計時間は月100時間未満または2~6カ月の平均で月80時間を超えることはできない

✅臨時的な特別な事情があって労使が適切に合意する場合(特別条項)でも、休日労働を含めて年720時間、複数月平均80時間、月100時間未満を超えることはできず、月45時間を超えることができるのは年の半分(6カ月)まで

✅上限規程を超過する労働を行わせた場合には労働基準法違反の規程(119条)により【6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金

✅36協定の範囲内であっても労働者に対する安全配慮義務を免れることはできない

労働基準法上は「時間外労働」と「休日労働」は別個のものとして扱われ、今回の法改正によって設けられる限度時間(月45時間・年360時間)は時間外労働の限度時間であり、休日労働は限度時間に含まれませんが、時間外労働が45時間に収まり特別条項を要しない場合であっても、例えば時間外労働が44時間、休日労働が56時間のような、実際の時間外労働と休日労働の合計が月100時間以上または2カ月以上の複数月平均80時間超になった場合には法律違反(労働基準法第36条6項)として扱われます。

臨時的な特別な事情とは

『通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合』を具体的に定めることとされています。例年の転勤シーズンのように繁忙期が予測されるような引越し業、不動産業等の業種において業務量の増加は『予見することができない』とは言えませんが、行政解釈通達(2-6)によると、労使当事者が事業又は業務の態様等に即して自主的に協議し、可能な限り具体的に定めさえすれば問題ないようです。

《臨時的と認められるもの》

●予算、決算業務●ボーナス商戦の繁忙●納期のひっ迫●大規模クレームの対応●機械トラブルの対応

《臨時的と認められないもの》

●事由を限定しない業務都合●事由を限定しない業務繁忙●使用者の都合●年間を通じて適用されることが明らかな事由

管理監督者(41条)の制限

課長や部長、店長といった社内における役職者であればクリアされていると思っている会社や労働者はいまだに多いようですが、時間外労働が規制されない管理監督者(法41条)と、会社が肩書する管理職は同じではありません。「管理職者には適用されない」と管理職を納得させても、行政指導や労働者からの訴訟など、問題が社外に出れば会社はペナルティを受ける可能性があります。管理職者が法律上の管理監督者に該当するかどうかは弁護士や社会保険労務士の意見を聞き、「法律を基準とした」扱いに合致しているか十分注意する必要があります。

変形労働時間制と上限規制

最もポピュラーな1年単位の変形労働時間制度を導入する事業所の36協定の上限は原則的な規制よりもやや厳しくなります。導入コストと維持コストのかかる面倒な変形労働時間制ですが、1日10時間、1週52時間、週48時間を超える所定労働時間は連続3週以内など、厳格な要件をクリアできる設計ができれば残業代削減には一定の効果がありますが、要件を満たさない変形労働時間制はそれ自体が無効と扱われるため、厳粛で完全な運営を行わなければなりません。

期間 原則 3カ月の対象期間を超える1年単位の変形労働時間制
1ヵ月 45時間 42時間
1年間 360時間 320時間

特例措置対象事業場の加算

一定の条件を満たす事業場は原則の法定労働時間が緩和され、一週44時間として扱うことができますが、不動産仲介業は条件を満たすことはできません。不動産管理業は適用業種となりますが、過去一年間の売上比率や従業員の従事性など、実態によって個別判断されるため自己判断で特例措置対象事業場と扱わないよう注意が必要です。

《特例措置対象事業場の適用業種(常時10人未満の事業場単位)》

◆商業(卸売業、小売業、理美容業、倉庫業、駐車場業、不動産管理業、印刷除く出版業、その他の商業)

◆映画・演劇業(制作除く映画の映写、演劇、その他興業の事業)

◆保健衛生業(病院、診療所、保育園、老人ホームなど社会福祉施設、個室付きを除く浴場業、その他の保健衛生業)

◆接客娯楽業(旅館、飲食店、ゴルフ場、娯楽場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業)

労働形態を変更する

全ての労働者に適用される働き方改革関連法ならば、労働者ではない扱いとして、業務委託(請負)契約や顧問契約など、『雇用契約以外の契約』で労働させればよいという悪知恵は古くから悪用する事業主がいましたが、労働時間の自由度、指揮命令に従う義務など、実質的に労働者と変わらない場合には労働基準法の適用を逃れることはできません。不動産仲介業者からフリーランスとして「重要事項説明だけ請け負う」、「案内だけ請け負う」、「写真撮影だけ請け負う」など職務を限定された請負であれば問題ありませんが、始業、終業時間が縛られていたり、朝礼や会議への出席義務、幅広い業務命令へ従事している場合などがあれば問題となります。高い委託費用を払っていても労働者性が認定されれば膨大な残業代を支払いしなければならないため、社会保険料の負担や残業代、上限規制を逃れるために労働形態を変更するのは割に合わない方法といえます。

サービス残業させる

上限を超えて働かせることができないのならば、残業自体を記録させないようにする悪い事業主もいるはずです。業務の都合を無視して残業すること自体を厳格にルール化することで、事前の申請や許可を経ずに行った残業の一切を認めないとする方法です。これらは残念なことに多くの専門家でも指南されている残業代対策手法で、サービス残業の温床となっています。監督署はタイムカードや出勤簿など、記録されたものを基準として調査を行ってきたため、これら記録を偽装してしまえば発覚することは無いはずです。しかし近年は多くの未払い残業代紛争の判決によって、PCのログだけでなく携帯電話や手帳、交通機関の乗車記録なども重要な証明として裁判で採用されていることから、仮に行政調査をうまく切り抜けても、労働者や家族からの紛争を回避することはできません。人権団体や労働組合、弁護士などによる労働者の権利保護活動の機運が高まっており、また訴訟に至るまでの「あっせん」や「労働審判」なども広く活用されていることから、意図せずともサービス残業を発生させることは現代の事業主にとって極めてリスクが高い違法行為となります。資格を保有する専門家は当然、コンサルタント業者でもサービス残業を疑われるようなグレーな方法を推薦する人はもはや皆無になりました。(過去は沢山いましたが)

実態と異なる特別条項付き36協定を締結する

36協定などの労使協定は「過半数を組織する労働組合がある場合はその組合」、「組合がなければ民主的な方法によって選任された過半数の代表者」によって事業主と締結しなければなりませんが、事業主が一方的に任命した労働者代表に協定書へ押印させたり、勝手に作成して提出するなど、偽装まがいの届出を行っている会社もあります。独立行政法人労働政策・研修機構(JILPT)が2018年に行った調査では、過去3年間に「過半数代表者を代表したことが無い・わからない」と回答した事業所が半数近く、適切な選出方法である「投票や挙手」以外の不適切な方法(自動的に決定・会社が指名)も3割近くに上り、さらに本来労働者代表にふさわしくない職位者(課長・部長・工場長など)も半数近くであったことから、相当な事業所で36協定の有効性が疑われます。

実際に36協定の要件を満たさずに一カ月に100時間を超える違法な残業をさせていたとして、事業主だけでなく共謀した社会保険労務士が書類送検された事件もあります。届出があった際に労働基準監督署は書面の要件を確認するのみで、労働者へ聞き取りなど調査を行わないため発覚しにくいケースといえますが、労働者が労働基準監督署へ申告(内部告発)するなどで発覚するほか、法改正による行政調査の強化によって発覚するケースが増加すると思われます。1年以上勤務する労働者が職場の36協定の特別条項を知らないということは労使協定の要件上考えられないことで、万が一勤務先で一方的に残業させられて不満がある従業員がいる場合には様々な対抗措置をとることができるため、36協定の成立要件など時間外労働の適法性については十分確認しておくべき重要な社内監査事項となります。

36協定は過半数労働者を正しく選任しないと「書類送検」される!

法改正後の時間外労働のリスク

平成25年に厚生労働省が行った調査によると、中小企業の約6割の事業者が36協定を締結していないことが明らかになりました。時間外労働の無い事業であれば問題有りませんが、極論1分でも時間外労働を行えば即法違反(法32条違反)となるため、現実的には多くの中小企業では労働法が守られていないことになります。このようなコンプライアンス違反の状態を放置することは行政指導リスクや訴訟リスクがいつ表に出るかわからない不安な状態で事業を行っていることになり、高い確率で表沙汰になった際には厳しい追及と違反の程度を大きく上回るペナルティを受けることになります。大阪と東京に設置された過重労働撲滅特別対策班(通称「かとく」)のほか、労働基準監督署による調査強化、弁護士事務所による未払い残業代請求ビジネスなど、社会は過重労働を徹底的に撲滅することを要請しており、時間外労働の上限規制によって多くの事業者が法律違反の犯罪者になることは避けなければなりません。今までは黙認、事実上残業代さえ払っていれば大きな問題とならなかった中小企業の長時間労働問題は大きな転換期を迎えています。不動産業者ではほとんどの事業者で労働時間管理に違反があり、仲介業者の大半は月100時間以上の違法残業が当たり前のように行われてきましたが、もはや許される時代ではありません。時間外労働を上限規制に収めるのは当然として、時間外労働を短縮するための取り組みは進んでいるでしょうか。

【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所/山田雅人(宅地建物取引士・社会保険労務士)
大企業・上場企業を中心に10年にわたり全国500社以上の人事担当と面談、100社以上の社宅制度導入・見直し・廃止に携わった経験を活かし、不動産に特化した社労士として不動産業者の働き方改革を支援しています。

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