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不動産営業のフルコミッション制度は合法か?2025年の法対応と制度設計ポイントを解説
2019/12/04
(最終更新日:2025/08/26)
はじめに
かつて不動産業界で一般的だった「完全歩合給制度(フルコミッション)」ですが、現在では法的な矛盾や労働条件の不安定さから、その実態は限定的です。漫画『正直不動産』のような世界観はフィクションに近く、2025年時点でも、主要求人サイトでは『完全歩合制』を掲げた求人は非常に少数です。
それでも一部ではこうした制度を希望する営業もおり、「フルコミッション=ブラック」といった偏った印象だけで判断せず、法的な視点と制度設計の両面から検討する必要があります。
フルコミッションとは何か?その構造と法的な位置づけ
フルコミッションとは、基本給なし・成果報酬のみで報酬が支払われる制度です。多くの場合、雇用契約ではなく「業務委託契約」として位置づけられます。業務委託ならではの自由度の高さがメリットとされますが、一方で以下の法律的制約があります:
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労基法27条:雇用契約での出来高払制には、労働時間に応じ一定額の保障給が必要です。
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最低賃金法:時間換算で最低賃金を下回らないよう保障が必要です。
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社会保険等の不適用:業務委託では厚生年金・雇用保険・労災の対象外となるため、自己での加入が必要です。
※現時点(2025年)では、業務委託契約の場合、厚生年金・雇用保険・労災保険は原則対象外です。ただし、フリーランス保護に関する議論が進んでおり、将来的に制度改正がなされる可能性もあります。
労働者性と事業主性の判断基準(2025年時点)
フルコミッションが法的に認められるかどうかは、「労働者性」が排除されているかがポイントです。以下の基準が、裁判所の判断にも取り上げられることがあります:
指揮監督・拘束性・代替性
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出勤時刻や業務内容に強い拘束があると、労働者として認定される可能性が高まります。
報酬体系と保障
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成果ゼロ時の報酬がゼロとなるなど、極端な報酬構造は労働者性を補強する要素に。
機械・什器の所有
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営業車やPCを支給していると事業主性を弱め、企業寄り(労働者)とみなされる可能性があります。
2024年施行:フリーランス取引の新法(事業者間取引適正化等法)
2024年11月から施行された「フリーランス・事業者間取引適正化等法」も業務委託の運用には影響します。この法律は、企業とフリーランス間の取引を適正化し、不利益を減らすことが目的です。ただし「名目上の業務委託契約」でも実態が労働者であれば、本法律は適用されず、労働関連法が優先されます。
メリット・デメリットと向いている働き方
☑フルコミッション制度のメリット
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成果次第で高収入が狙える(歩合率30~95%)
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成果主義で営業力に自信がある人には魅力的な報酬設計
☑フルコミッション制度のデメリット
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収入が不安定になるリスクが高い
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自己管理・確定申告・社会保険加入が必須となる負担
結論:2025年、フルコミッション制度は法的に運用可能か?
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完全歩合給を「業務委託契約」でかつ事業主性が明確な個人に限定すれば適法とされる可能性はある。
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ただし、制度設計が甘いと「実態上の労働者」として違法と判断されるリスクが高い。
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専門家と協議のうえ、個別事案ごとに慎重に制度設計を行う必要があります。
最低賃金法に抵触しないよう、月額の最低保証給を設定した上で、歩合給と比較し高い方を支給する『最低保証付きフルコミッション』など、制度設計の工夫が求められます。
よくある質問(FAQ)
【制度運用・法令適用】
Q1. フルコミッション制度でも社会保険の加入が必要ですか?
A: 原則として対象外ですが、実態が「労働者性あり」と判断された場合、企業に遡及的な加入義務が生じる恐れがあります。
Q2. 最低賃金法はフルコミッションにも適用されますか?
A: 実態が労働者であれば適用されます。成果ゼロでも報酬がゼロとなる構造は、違法と判断される可能性があります。
Q3. 契約書のタイトルが「業務委託契約書」なら安全ですか?
A: 契約書名ではなく、実際の業務実態が判断基準となります。出勤指示・会議参加の義務・支給備品などがある場合は労働者性を補強する材料になります。
Q4. 出退勤や休日を定めた場合のリスクは?
A: 業務委託であっても、時間的拘束があれば労働者性を否定できません。退勤管理をしている事実そのものが、労働者性を強く疑われる要因になります。
Q5. フリーランス新法はどのように関係しますか?
A: 業務委託が適法である場合、契約書交付や報酬支払期日の明示などが必要です。実態が雇用であれば、労働法が優先されます。
【退職・トラブル対応】
Q6. 退職後に未払い残業代を請求されたら?
A: 実態に労働者性があると判断されれば、残業代支払い義務が発生する場合があります。委託契約でも、日々の業務実態を記録しておくことがトラブル防止に有効です。
Q7. 労働基準監督署から是正勧告されるケースとは?
A: 以下のようなケースは高リスクです:
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出退勤・休憩を管理していた
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報酬が最低賃金を下回っていた
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委託なのに固定給のような構造だった
これらは「偽装委託」として是正の対象になります。
【制度設計に関する疑問】
Q8. フルコミッションと固定給を選べる制度は合法ですか?
A: 合法です。ただし、それぞれの選択肢に応じた契約設計が必要で、1年ごとの契約更新・変更が適切です。
Q9. 安全に導入するための制度設計ポイントは?
A: 下記の工夫が有効です:
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最低保証報酬を設ける
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曖昧な拘束や命令を避ける
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報酬・成果・業務内容を契約書で明示する
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社会保険・税務リスクを明確に説明する
おわりに
2025年現在、フルコミッション制度は「慎重な設計のもとであれば合法運用が可能な制度」です。不動産業界の成果主義にマッチする一方、法的リスクやトラブル予防のために、導入時には弁護士・社労士等の専門家との連携が不可欠です。
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(フルコミッション制度の参考となる最高裁判例)
新国立劇場運営財団事件(最三小判平23.1.2)
INAXメンテナンス事件(最三小判平23.4.12)
ビクターサービスエンジニアリング事件(最三小判平24.2.21)
【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所/山田雅人(宅地建物取引士・社会保険労務士)
大企業・上場企業を中心に10年にわたり全国500社以上の人事担当と面談、100社以上の社宅制度導入・見直し・廃止に携わった経験を活かし、不動産業専門に特化した社労士として事業主・従業員双方にメリットの高い制度設計など働きやすい職場に向けた取組を支援しています。
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