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転勤留守宅(空き家)を賃貸住宅で貸し出ししようと思ったら

2019/09/20

突然の辞令。空き家になった持ち家を貸す方法

独立行政法人労働政策研究・研修機構が2017年、全国の常用労働者300人以上の企業10,000社・労働者80,000人を対象に行った『転勤の実態に関する調査』によると、「正社員のほとんどが転勤の可能性がある」と回答した企業が3割を超えて33.7%、「転勤がほとんどない」と回答した企業は3割に満たない27%という結果でした。現在の判例の多くは企業の転勤命令に合理性を肯定しており、基本的に転勤を命じられた社員が拒否する方法は、「自主退職」か「解雇を待つか」の選択肢しか残されていません。いつ何時辞令によって命じられるかわからない転勤時に、既に「現在の住居が持ち家」だった場合に残される空き家はどうすればいいのでしょうか。都市部であれば、購入と売却のタイミングさえよければ大きな損を抱えることにはなりませんが、既にオーバーローン(限界一杯の住宅ローン)を組んでしまっている場合には売りたくても売れない現実に直面します。空き家として放置しておくにはローンの返済のほか防犯面や火災などの心配、老朽化やメンテナンスに維持費がかかります。結局、売却する以外の方法として外部へ賃貸に出そうと思った時にはどのような「貸し方」があるのでしょうか。メリットやデメリットを踏まえたうえで最適な方法を検討しましょう。

1.一般住宅(普通借家契約)として貸出する

区分所有マンションや一戸建ての空き家(留守宅)を賃貸物件として貸し出す方法は古くから多くあり、最もポピュラーな貸し方ですので多くの方はこの方法を選んでいます。

《メリット》

☑固有性が高く相場に影響されにくいため、多少高くても借り手が付く可能性がある。

☑近隣に比較する物件が少ない場合は賃下げ交渉を受けにくい

☑幅広い顧客を対象にできるため、早く借り手が付く可能性がある。

☑長期入居者がそのまま購入してくれることがある

《デメリット》

✅家主の都合で契約を解除することができない

✅入居中は売却しにくい

個人契約だけでなく、最近は法人契約の借上げ社宅も増加傾向が続いており、立地が多少悪くても契約の可能性があります。借主が大手法人の場合には家賃滞納や入居者のトラブルもリスクが低く、また原状回復費用も正当性があれば支払に応じてくれる可能性が高いため、可能であれば法人契約を狙うことも検討したいところです。法人契約であれば入居者の自己負担が少ない場合が多く住居への固執も低いため、借主法人との交渉によっては案外簡単に退去してくれることもあります。

2.期限付きで貸出する

通常の借家契約では借主を保護するため貸主からの解約や更新の拒絶を強く制限しており、正当な事由がある場合を除き家主から契約を解除することはほとんどできず、「一度貸すと入居者が退去を申し出無い限り、永遠に占拠される」イメージがありますが、期限付きの単身赴任など、赴任が解除された場合の自宅としていずれ戻る予定がある場合には一定の期間を過ぎれば契約を更新しない「定期借家契約(リロケーション)」の方法で外部に貸す方法があります。期間中に業者が一括で借上げし、家賃収納業務や保守管理業務などリスクの大半を引き受けしてくれる「リロケーションのサブリース(転貸)」という便利なスキームもありますが当然コスト増となるため、返済ローン額やコストの収支を見て検討が必要です。なお、貸主に有利な契約であるほど入居者は制限されていくことになるため、普通借家契約のように幅広い顧客層をターゲットにすることができません。

《メリット》

☑契約時に定めた期限が到来すれば解約になる

☑退去が予定されているため後で売却しやすい

《デメリット》

✅大手法人契約は不可

✅業者への委託費用が割高になる

✅高い賃料での契約は期待できない

定期借家契約は貸主に有利な契約となるため、大手法人や社宅代行会社のほとんどが借上げ社宅としての契約を不可としているほか、個人契約においても中高齢で金銭の余裕のある世帯や長期入居希望者はよほどの事情がなければ契約期限付き住宅を契約することはありません。また、定期借家契約にするためには重要事項説明書や契約書が法律上の要件を満たしていなければ無効と扱われることになるため、不慣れな業者に委託したトラブルも多発しています。自身も定期借家の要件を十分確認の上、安易に契約書に押印しないようにしましょう。

3.シェアハウスとして貸出する

シェアハウスは上記の一般賃貸や定期借家による契約関係となりますが、メリットやデメリットが大きく異なるため別扱いとします。

《メリット》

☑希少価値が高いため、比較的高い家賃でも借り手が付く可能性がある

☑入居者が良質な集団構成(学生や職場グループ)によっては、長い入居期間が期待できる

☑家財道具をそのまま貸出せば付加価値を提供できる

《デメリット》

✅個人契約の場合は入居者内部のトラブルで家賃滞納になりがち

✅虚偽情報による申し込みが多い

シェアハウスは家族以外のグループによる共同生活であり、あらゆる地域、あらゆるコミュニティで住居を契約する機会が増えています。募集条件で「シェアハウス可」としておけば目を引くことは間違いありませんが、契約を焦って十分な審査をせずに契約してしまうと確実にトラブルの可能性を高めます。できるだけ個人グループではなく、法人などの法律上認められた人格団体へ貸すことが最低限の審査基準です。

4.外国人受け入れ用住宅として貸出する

外国人をターゲットにした貸し方も希少性と付加価値が高まります。今後は外国人労働者の入国関連法率の緩和によって特定技能者(1号・2号)など、外国人労働者の受け入れを推進する政府のニーズに、外国人が入居できる住居が足りない状態となることは確実と言われています。地方や近隣に工場地域があるエリアの他、外国人受け入れに力を入れる行政区域内によっては【高賃料・長期契約】を狙うことのできる唯一の貸し方ともいえるため、安定利回りを優先するならば検討も必要です。

《メリット》

☑希少性が高いため、長期契約・高賃料の契約が期待できる

☑法人または行政との賃貸契約で滞納リスクが極めて低い

《デメリット》

✅宗教や文化の違いによる住居様式で、異文化の知識がないとトラブルになる

✅契約内容を譲歩(入居者入替など)しなければならない

✅近隣が歓迎しない

外国人入居者は一部の日本人のように『コスパ』を求めて住宅を選ぶ考え方はありません。また、外国人を雇用する企業では常に住宅不足に頭を悩ませており、内装の美麗さや周辺環境の立地などは二の次、最低限の設備さえそろっていれば即契約してくれることがあり、また些細な故障でのクレームもほとんどありません。ファミリータイプの住宅は人気駅近物件以外は借り手がつくのに相当な運が必要なため、家賃収入を優先するならば外国人入居者も歓迎することが賢い賃貸経営です。

5.民泊用住宅として貸出する

転勤留守宅を民泊住宅として貸出するためには許可申請が必要であり、また宿泊者の予約や宿泊費の回収、メンテナンスなど、維持に大変な労力を要します。専門のサイトや業者も増えていますので民泊用として検討する場合には代行業者をよく調べたうえで委託が必要です。区分所有マンションの場合は民泊を禁止しているところも多くありますが、戸建て住宅であれば要件さえ満たせば可能なこともあります。ハイリスク、ハイリターンの貸し方といえます。

貸し方の比較表

賃貸方法 家賃収入 入居期間 法人契約 外国人用
一般住宅 一戸建て
マンション
定期借家 一戸建て × ×
マンション
シェアハウス 一戸建て
マンション
民泊 一戸建て ×
マンション × × ×

おわりに

長く続いた不動産の不況も緩やかな好景気に転じ、都市部でなくてもマンションの建設ラッシュが続きましたがすでに供給過多によって賃貸物件の空き室が目立ちます。しかし、中小企業でも税金や社会保険料の節約に注目が集まる借上げ社宅制度や外国人の受け入れ、その他人材不足が深刻な保育士、介護士への公的補助金投入など、その時々で高いニーズのある契約方法があります。資産は運用しなければ利益を生むことは無く、運用するためには幅広い方法を知っておかなければなりません。大切な持ち家とはいえ、あまり固執することなくニーズに柔軟な募集を行うことが賃貸経営の第一条件です。

 

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