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シェアハウスの法人契約ガイド|借上げ社宅にする際の税務・契約・規程の注意点【2025年最新版】
2021/10/04
(最終更新日:2025/08/18)
シェアハウスを社宅にできる?法人契約のメリット・デメリットと注意点【社労士解説】
リビングやキッチンを共有する「シェアハウス」は都市部だけでなく全国に広がり、デザイン性の高い物件や付帯サービスの充実など、多くの若者に選ばれています。近年は、法人による社宅(社員寮)利用のニーズも増加していますが、契約には独自のリスクが伴います。
運営会社やオーナーからすれば繰り返し契約が見込まれる安定収入や滞納リスクの低い法人契約を取り込みたいのは当然ですが、では、借りる側の会社としては、どのような点に注意すべきでしょうか。
本記事では、シェアハウスを借上げ社宅として法人契約する際の注意点 を、社宅制度コンサルティング10年以上の専門家が実務目線で解説します。
シェアハウスを法人契約するメリットとデメリット(概要)
メリット
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初期費用や賃料が安い
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家具・家電・ネット環境が整備されている
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福利厚生の充実、採用力向上
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新入社員や単身赴任者の一時利用に最適
デメリット
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定期借家契約が多く、更新できない可能性
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居住者間トラブルに会社が責任を負うリスク
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契約が不安定で退去費用が発生する場合も
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いわゆる“ブラック家主”と呼ばれる不適切な貸主や管理不十分な物件のリスク
⇒ まずは概要を押さえてから、詳細をチェックしていきましょう。
シェアハウスとは?一般賃貸との違い
シェアハウスは賃貸住宅の一種ですが、リビング・キッチン・浴室などを共用する点が大きな特徴です。国土交通省の「シェアハウスガイドブック」でも、生活ルールや清掃方法が定められていることが指摘されています。
一方で、法人契約はまだ一般的ではありません。
理由は以下の通りです:
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法的リスク(住宅セーフティネット法・借地借家法の扱い)
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トラブル時の使用者責任
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定期借家契約による不安定さ
シェアハウスは賃貸住宅の一種ですが、一般の賃貸住宅とは異なり、リビング、台所、浴室、トイレ、洗面所等を他の入居者と共用して、共用部分の利用方法や清掃・ゴミ出し等に関する生活ルールが設けられていることが多い点が特徴です(国交省シェアハウスガイドブックより)。
市場も成熟に向かい、関係法律も整備が進み始め、貸す側も借りる側もニーズが高い一方で、転勤が実質制度化されている大企業だけでなく、中小零細企業においてもシェアハウスはほとんど社宅として利用されていません。法人契約ではどんなハードルが利用を躊躇させているのでしょうか。
人間同士が関係する以上、トラブルが増加するのは当然として、違法ローンによって社会問題となっているビジネスや、区分所有マンションの管理組合の許可を得ずに利用し裁判沙汰になったケース、建築基準法を無視した居室の細分化による貧困層ビジネスなどトラブルとなっている関連ニュースも多発しており、リスクを敬遠する一般の経営者感覚からすればややこしい話にあまりかかわりたくないと思うのも無理はありません。とはいえ、若者を中心に利用が広がっている以上、従業員から利用について相談も増えるでしょうし、会社としては福利厚生充実のチャンスとして今後シェアハウス活用を検討していくこともまた自然な流れと言えます。
法人契約での注意点は大きく次の3つの面から点検していきます:①法律面、②税務・規程面、③契約実務面
法律・権利関係の確認が必須
法人契約の前に、以下の法律・契約関係を確認しましょう。
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住宅セーフティネット法:登録の有無をチェック
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借地借家法:定期借家契約か、普通賃貸借か
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使用者責任:入居者のトラブルが会社責任になる可能性
特に、従業員の死亡事故・火災・騒音などのトラブルが発生した場合、会社に損害賠償請求が及ぶリスクもあるため、軽視できません。
税務・社会保険上のリスク
シェアハウスを社宅として扱う場合、社宅規程に明文化していないと経費否認リスク があります。
例えば、
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経費が否認され追徴課税される
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現物給与とされ社会保険料を追加徴収される
といった事態もあり得ます。
⇒ 規程整備については、関連記事「社宅制度を導入する際の基本(規程ひな形)」をご参照ください。
トラブル発生時の使用者責任
前述の権利関係の確認の続きとなりますが、住宅では失火・漏水・設備不良だけでなく、騒音トラブルなど様々な問題が発生します。加えて社宅の場合は退職時の退去だけでなく無断欠勤や行方不明となった場合の明け渡し対応など、労務管理上の対策も踏まえた運営と管理に責任があります。私生活の自由が確保されているため、会社契約するシェアハウス内でウイルス性感染症のクラスターが発生した場合の責任まで負うリスクは低いと考えられますが、重度後遺症や死亡した場合などは今後の状況によってどうなるか不明です。
不法行為によって第三者に損害を与えるような金銭問題となった場合には、裁判でも強く支持されている報償責任の考えから会社の責任はまず免れることはできませんので、従業員が居室内で亡くなった場合なども大げさではなく、ありえるリスクとして想定しておく必要があります。
また、契約上は会社が従業員に貸与(転貸)する形式になりますので、会社が受け取る従業員からの賃貸料相当額が著しく少額でない限り、居宅を利用できないような物件の設備不良(瑕疵)やトラブルがあった場合には貸す側である会社の責任ともなりえます。
契約する物件が居住者の自主性に任せた運営ではトラブルになるのは目に見えています。常駐する管理人などプロの業者が責任をもって対応しているなど、管理が適切になされているかどうかも契約の重要なポイントになります。家主自主管理は一般物件ならOKですが、シェアハウスを法人契約する場合は避けた方が良いかもしれません。
社宅規程に盛り込むべき内容
シェアハウスを社宅にするなら、社宅規程に以下を明記する必要があります。
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借上げ社宅にシェアハウスを含める旨
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退去時の費用負担の区分
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短期解約時の取り扱い
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福利厚生としての公平性ルール
⇒ 詳しくは「借上社宅の付帯サービスは所得税・社会保険料を徴収する?」も参考にしてください。
個別契約上の不利益事項
住宅はその物件ごとにそれぞれ固有の契約内容があり、サイト上では賃貸物件と記載されていても、契約書には一時使用貸借と記載されていたり、何も記載されていないことがあります。一時使用貸借であることだけをもって社宅と認められないことはありませんが、(借地借家法上の)借家扱いを免れることによって貸主都合の契約解除や賃料(利用料)変更を認めやすくする目的があります。借主にとって不利益が大きく、貸主に優位すぎる契約内容は法人契約では不可と扱うべきですが、いざ蓋を開いてみるまではわからないのが通常のようです。引っ越し会社の手配や新入社員の入社手続きと一括している場合には契約キャンセルだけの問題ではなくなり最悪、着任日に出社できないなどトラブルとなることが想定できます。
また、シェアハウスの契約は一定の「借りなければならない期間」を定めていることがあり、数カ月分を前払い(デポジット)したり、途中解約の場合は満たなかった期間分の差額賃料を違約金として請求されることがあります。一般物件でも1か月程度の短期解約違約金なら地域商習慣で約定されていることがよくありますが、シェアハウスの場合は1か月を超える違約金となることがあり、たとえ自己都合で退職したとしても、高額な違約金を本人負担にすることは問題がありそうです。
不動産会社に頼む場合であれば、事前にNGの条件を伝えておけば紹介されることはありませんが、プロの不動産仲介会社を介さない直接契約が一般的(そのぶん仲介手数料もかからない)なシェアハウスにおいては、法人契約に不慣れなオーナーや運営会社では法人契約も個人契約も単なる契約名義人の違いだけと考えていることがあります。契約書だけでなく登記事項など権利関係まで借主となる自社でしっかり確認が必要になりますし、その内容にどんなリスクがはらんでいるか見抜くためには一定の経験と知識が必要です。シェアハウス事業者が法人契約OKなのは当然ですが、借りる側が本当に適切かどうかは別問題です。社宅規程の整備や税務・労務の観点から契約内容を精査し、全てを無条件に承諾することはリスクであると認識しておきましょう。
住み続けることができない!?経営破綻リスクと定期借家契約の問題
シェアハウスは建物所有者から業者(運営会社)が一括で借上げし、居住者に対して転貸するサブリース型のビジネスモデルが主流です。この場合は所有者やサブリース会社が経営破綻した場合には退去しなければならないケースがあります。物件の所有者や運営会社の破綻は社宅制度の労使関係上では従業員の責任ではなく、社宅は事業活動のための制度である以上は会社の責任と扱われますので、退去の引っ越し費用や転居先の契約一時金など、物件の退去によって生じる費用を本人に負担させることは労働基準法16条(賠償予定の禁止)の観点からも望ましくありません。これは、本人が気に入って決めた物件であっても同様と考えられます。物件の契約に絡む関係者全ての財務状況や与信を確認することはなかなか難しいため実務では窓口の業者だけで判定することになりますが、ビジネスとして未成熟な市場の場合は最大手であっても法改正等によって大きくつまずく可能性があります。
また、シェアハウスの契約期間は6か月~12か月が中心の「定期借家契約(借地借家法第38条)」が大半であり、契約更新できない(更新できるかわからない)ものもあります。更新満了による退去も社宅契約の場合は会社都合と扱われるため、転勤が制度化されている大手企業や社宅代行会社では「定期借家は契約NG」としている会社がほとんどであり、法人契約で最大のハードルは定期借家契約であるといえます。入社時の呼び寄せによる一時利用やプロジェクトなど利用期間が決まっている場合でなければ、入居期間の制限や退去費用の負担区分を定めて無駄な支出が無いよう規程を整備しておく必要がありますが、福利厚生制度の公平性の観点から、シェアハウス入居者だけ特別に退去費用全額を会社が負担することもできませんし、根拠規程が無いにもかかわらず、「常識」を理由に費用を個人負担させることもできません。柔軟性のある中小企業であれば個別に特例も認めてもよいかと思いますが、大企業では例外を認めづらく判断が難しいところがあります。
転居費用は会社から見れば少額かもしれませんが、想定外の退去通知や出費で慌てないように、契約解除のリスクが一般住宅よりも高いことを理解しておく必要がありそうです。
まとめ
それでは、法人契約する際のシェアハウスについて、一般住宅(非シェアハウス)とメリット・デメリットについて簡単にまとめます。
(シェアハウスを法人契約するメリット)
◎初期契約費用・月額賃料が安い
◎社内規定の整備しやすさ(新入社員・中途採用社員一時利用社宅などとすれば導入しやすい)
◎社員満足度の向上(選択肢の増加、個人ニーズに合致した住宅)
〇名目上の人材育成(私生活での多様な生活が人材育成につながる考え方)
(シェアハウスを法人契約するデメリット)
▲居住期間が不安定(定期借家・更新の確実性)
▲居住者間・居住トラブルの責任負担
▲事務コストの増加(一般住宅とさほど変わらない?)
▲不適切な家主が見分けられない、物件調査は自己責任(仲介業者の不介入・家主との直接契約)
シェアハウスは契約初期費用も安く、家具家電やネット環境など生活必需品が整備されているものもあり魅力的な物件も多くありますが、シェアハウスを法人契約で社宅扱いする場合には、以下の内容も確認しておきましょう。法人に貸したいシェアハウス事業者の方は、以下の点をクリアできるか検討してみてはいかがでしょうか。
契約前チェックポイント
☑入居者の責任と負担区分が社宅規程にしっかり明記されているか
☑一般賃貸借契約での契約に変更可能か(定期借家契約ではない契約は可能か)
☑賃料等利用料は双方合意での変更
☑期間内解約による短期解約違約金は1か月以内
☑前払い賃料は翌月分を毎月末払い(自社の支払いサイクルに適合)
☑共同住宅の管理体制(家主自主管理は避ける)
☑連帯保証人(保証会社加入)条件の有無
☑国内非居住者(海外家主)への賃借料源泉徴収事務
まとめ:シェアハウス社宅は将来性ありだがリスク管理が必須
シェアハウスの法人契約には、費用削減・採用力向上・福利厚生充実 といったメリットがあります。
一方で、定期借家契約・トラブル責任・契約不安定性 といったリスクも大きいため、規程整備と契約チェックが欠かせません。
今後、若者の利用増加や孤独対策ニーズから、シェアハウスを社宅にする動きは加速 すると考えられます。
他社に先んじて導入することで、「柔軟で先進的な企業」 であることをアピールでき、採用・定着にもプラスとなることが期待できそうです。
【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所/山田雅人(宅地建物取引士・社会保険労務士)
大企業・上場企業を中心に10年以上にわたり全国500社以上の人事担当と面談、100社以上の社宅制度導入・見直し・廃止に携わった経験を活かし、不動産仲介業者に向けた事務代行サービスの提供と、不動産に詳しい社労士として中小企業の人材不足解消に向けた制度設計を支援しています。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. シェアハウスを社宅(借上げ社宅)として利用できますか?
A. はい、可能です。ただし、契約形態・社宅規程の整備・税務上の扱いを明確にしておく必要があります。特に定期借家契約や一時使用貸借の場合は、社宅経費として認められないリスクがあるため注意が必要です。
Q2. シェアハウスを法人契約にするメリットは何ですか?
A. 初期費用・家賃が安い、家具・家電・ネット環境が整備されている、福利厚生の充実による採用力アップ などが挙げられます。特に新入社員や単身赴任者の一時利用社宅としては導入しやすいメリットがあります。
Q3. シェアハウスを社宅にした場合、経費計上は認められますか?
A. 社宅規程に「シェアハウスを借上げ社宅に含める」旨を明記していれば、経費計上が可能です。ただし、規程整備をしていない場合には経費否認・現物給与課税のリスクがあります。
Q4. 定期借家契約のシェアハウスでも社宅にできますか?
A. 利用は可能ですが、契約更新できないリスクがあるため注意が必要です。大企業や社宅代行会社では「定期借家はNG」としているケースが多く、福利厚生制度としては安定性に欠けます。
Q5. シェアハウス社宅でトラブルが起きたら会社が責任を負うのですか?
A. はい。会社契約の社宅では、入居者(従業員)の失火・騒音・事故などに対して使用者責任を問われる可能性があります。そのため、契約前に管理体制(常駐管理人の有無など)を確認し、社宅規程で責任分担を明文化しておくことが重要です。
Q6. シェアハウス社宅を導入する際の注意点は?
A. 以下を確認することをおすすめします。
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契約形態(普通借家契約か、定期借家か)
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解約条件(短期解約違約金の有無)
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管理体制(家主自主管理ではなく、専門業者による管理)
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社宅規程への明記(費用負担区分・退去時のルール)
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税務・社会保険料の取扱い
Q7. シェアハウス社宅の利用は今後増えると思いますか?
A. はい。若者を中心に一人暮らし世帯が増加し、孤独対策や多様な働き方への対応としてシェアハウスのニーズは拡大しています。福利厚生の一環として導入する企業も今後増えると見込まれ、採用・定着戦略の一部として有効です。
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